ネットワーク事業

10代ヤングケアラー合宿キャンプ一日目

2025年の冬休みである12月25日から27日に、こども家庭庁の「ヤングケアラー相互ネットワーク形成推進事業」として、日本初の全国規模での「10代ヤングケアラー合宿キャンプ」を滋賀県(アクトパル宇治)で開催しました。その初日のレポート記事です。

クリスマスの12月25日、滋賀県大津市に集まった10代後半(と20代前半)のヤングケアラーは、北は北海道から南は九州まで総勢21名(ちなみに申し込みがあった4名が事前キャンセル)。そこに日々ヤングケアラーをささえる今回のキャンプ引率でもある支援者が6名。2022年から滋賀県で行ってきたヤングケアラー合宿キャンプの活動の経験から当日、複数の欠席連絡が入るだろうと主催者側として想定していましたが、何と直前キャンセルは0名。そもそもヤングケアラーである若者たちがケアのある家族を残して、遠路はるばる滋賀県に来るだけで大きな壁があります。まずはその壁を無事に乗り越えて参加者が滋賀県に集まることが出来ました。明日都浜大津で受付をすませて、配られたしおりや名札・プロフィールカードづくりをしている参加者の顔には、まだまだ緊張と不安が溢れていました。

初日のプログラムは、全国からやってきた参加者に滋賀県にやってきたことをしっかり感じて欲しい。となると、やはり「びわ湖」は外せない! こどもソーシャルワークセンターの夜の居場所トワイライトの夕食でもお世話になっている琵琶湖汽船さんに相談したところ、貸し切りチャーター船による「びわ湖クルーズ」を格安で提供してくれました。大津港から琵琶湖大橋までの90分クルーズ。もちろん参加者の多くは生まれてはじめてのびわ湖クルーズ。ただただこの日のびわ湖は残念な雨交じりの曇り空。快晴のびわ湖を見せてあげたかった! 受付と開会を行った明日都浜大津では緊張と不安の顔が見えた参加者も、船内レクレーションやこの日、誕生日だった参加者のために行ったサプライズバースデーケーキなどで、少しずつ和らいでいくのを感じました。

びわ湖クルーズを終えて、キャンプ会場となる「アクトパル宇治」にバスで移動。今回のヤングケアラー合宿キャンプの目的のひとつが「いつもの家庭でのケアを離れてのレスパイトケア(休息)」でもあることから、アクトパル宇治についてからは、ゆっくり休みたい人もいればプログラムを楽しみたい人もいるだろうと考えて、セレクト型のフリープログラムとなりました。そして夕食は滋賀県でも老舗の近江牛松喜屋の近江牛弁当を食べてもらいました。あちこちで「近江牛めっちゃおいしい!」の声があがっていました。参加自由で準備したプログラムは「天体観測」「映画鑑賞会」「カラオケ大会」(「宇治市内観光」も予定していましたが運営体制の関係で取りやめ)。参加者それぞれのペースで夜の時間を楽しんでもらいました。全国から集まってきたヤングケアラーたちの夜は更けていきました。

参加者の一人がキャンプ後に送ってくれた体験記より

★この体験記は本人の許可を得て掲載しています。またプライバシーに関わる箇所は一部修正させてもらっています。

北海道から滋賀へ。朝四時半に起床し、飛行機から見下ろす真っ白な大地を後にし、はじめての西日本へ。窓を流れる冬の景色が、北国とは違う色彩を帯びていく。「本当に滋賀に来たんだな」と、電車の座席に座りながらぼーっと外を眺めていた。雪のない地面が見えるだけで、遠くへ来た実感が湧いてくる。その景色と初めて聞く生の本場関西弁。駅のコンビニ店員さんがクリスマスのコスプレをしている姿にさえ心が浮き立った。

(中略)

その日の出会いの中で、特に印象に残っているのは、◎◎さんと、○○くんだった。◎◎さんは、私が言葉にできなかった感情を「それでいいんだ」と受け止めてくれた人であり、 ○○くんは、同じ時間を生きる仲間として自然に隣にいてくれた存在だった。

びわ湖クルーズ後のバス移動では、隣に誰か座ってほしかったから、◎◎さんに隣に座ってもらった 。北海道の話や将来なりたい先生という職業について話した。そして、ヤングケアラーとしての自分についても話した。ここでの話は、のちの参加者にも誰にも言わなかったし、自分の中で感情を言語化できていないけれど、自分自身の根源に触れる話をした。まだうまく言葉にはできないけれど、今の自分の形を作っている大切な欠片のような話だ。

(中略)

◎◎さんは「辛いことがあったね」と静かに受け止めてくれた。泣きそうになったのを覚えている。泣いていいんだよ、とも◎◎さんは言っていた。「こどもの頃の自分を抱きしめたい、という気持ちのままに生きているんだと思う」と言った◎◎さんのその言葉を、そっと胸にしまった。誰もが人には言えない何かを抱えて生きている。それを無理にさらけ出す必要はないけれど、溢れてしまう前にどこかへ分散させておきたいと思った。

山深いアクトパル宇治に到着したとき、その静けさに驚いた。 皆の表情には疲れが滲んでいたが、それ以上に「この時間を楽しみたい」という熱量が、クリスマスのきらびやかな飾り付けと共に会場を包んでいた。 飛行機の機内アナウンスが告げた「サンタクロースからの素敵なプレゼント」という言葉が、ふと頭をよぎる。

お風呂に入る時間が少なかったので急いで入り、このときは参加者の△△くんといっしょに動いていた。 夕ごはんを食べながら、福井の△△くんと北海道に行きたいなという話をしたりして、だんだんとお話ができるようになってきた。他の地域でもヤングケアラーの支援活動やユースワークが広がっていて嬉しかったし、繋がっていけるといいなと思った。夜のフリープログラムはカラオケか映画かすごく迷ったけど、映画を見ることにした。明日のアートワークの講師が監督の映画『猫と、私と、もう一人のネコ』を鑑賞した。 家族を想う心がぶつかり合う現実に胸を打たれ、上映後、監督が一冊の原稿を見せた。それは、私自身の生育歴や、ヤングケアラーとしてのこれまでの経験を綴った、私自身の人生そのものの小説だった。心地よい疲れと、繋がりへの安心感の中で、一日目の夜は深く眠りについた。